40回目の今回は、ニフティ「ココログ」にて日本のISPで初めてのblog(以下、ブログ)サービスを立ち上げ、先日、日本最大のブログユーザー数を誇る鰍ヘてなに移籍した伊藤直也氏に、ブログの現在と未来、ビジネスの可能性などについてお話いただきました。
■ブログとは
ブログとは、ウェブサイトの「ウェブ」と記録などの意味を持つ「ログ」を併せた造語で、要はウェブ上の日記です。専門知識がなくても手軽にウェブの作成・更新ができるのに加え、他人のブログとリンクさせる「トラックバック」と呼ばれる機能などによって、情報の輪が瞬く間に広がることが人気の背景にあります。
ブログの画面を見たことのある人はお分かりだと思いますが、一見すると普通のホームページとよく似ています。しかし、両者には多くの違いがあります。
最も大きな違いは、作り方や更新方法です。従来のホームページでは、HTMLなどを使って、FTPといわれるサーバーにアップロードしてサイトを作成・更新をしていました。しかし、その作業は非常に手間がかかります。
それに対しブログの場合は、掲示板に日記を書き込むようにするだけで日付や過去の記録、カレンダーなどを機械が自動的に更新してくれるため、非常に簡単にウェブの作成・更新ができるのです。ましてや、HTMLを知る必要もありません。これがブログのすごい所です。
なお、ブログの定義についてはいくつかの説がありますが、最近よく巷で使われる「ブログ」の要素としては、@単なる日記とは違う使われ方をしている、A単にホームページの形式が日記形式になっているだけではない、B日記形式のサイトを更新するためのツールやシステムによって構築されたウェブサイトであるなどといったものを「ブログ」といっています。
■インターネットとウェブの間を埋めるブログの役割
では、インターネットにおけるブログの位置づけとは、どのようなものなのか、伊藤氏に説明していただきました。まず、インターネットの構成要素を見ていくと、一番下にサーバーやネットワークなどのハードウェア→TCP/IPネットワークといったインターネットのネットワーク技術→インターネット→最上段にウェブサイトがあります。
ここで考えたいのは、実はインターネットとウェブサイトの間にはものすごい距離があるということです。例えば、HTMLによるホームページの更新は専門的な知識が必要であったり、企業がホームページを構築しようと思ったらシステム会社の手が必要だったりと、「インターネットは、誰でも情報発信ができる」といいながら、実は誰でもができなかったというのが今までの現状なのです。
そこで、その間を埋めるツールとして登場したのがブログです。ブログの場合は、ウェブアプリケーションを使ってサイトを作成・更新するため、システムに詳しくない人でも簡単にサイトが持てるようになったのです。
今後は、インターネットにおいてハードウェアがインフラであるように、ブログがウェブサイトを構成するためのインフラになることが必須と思われます。すなわち、サービス提供者側から見れば、そのインフラを使っていかにビジネスを展開するかが鍵になったのです。
■ブログビジネスの本質
現在、ブログサービスは、はてなをはじめ大手プロバイダーがサービスを開始しており、利用人口は約30万人以上とも言われています。そこで、伊藤氏よりブログビジネスの本質についてお話いただきました。
まず、ブログのサービス提供者にとっては、ユーザーが集まればその分コンテンツが増えるので、トラフィック(ネットワークを伝える情報量)を大量に抱えることになります。それをどのようにお金に換えるかというのが、ブログビジネスの肝になります。
多大なシステム投資を回収するために、一つの方法として有料課金のモデルを採用することも考えられますが、ユーザー一人あたりの固定費が一定であるということは、利益もずっと一定にしかならないため有効とはいえません。
要は、会員数を多く集めればよいというわけではなく、トラフィックを集められるユーザーをいかに獲得するかが重要なのです。また、そこに参入障壁を築くことによって、サービスに新たな価値が生まれます。例えば、グーグルの場合は、アドワーズ広告にオークション形式で費用が変わっていく仕組みを持たせていたり、ヤフーは、オーバーチュアが検索結果に対して最適な広告を載せるという特許を持っています。
はてなの場合は、「はてなダイアリー」というblogサービスに、「キーワード」というユーザー自らが書き込める辞書のような仕組みをもたせ、そこでビジネスを構築することによって参入障壁を築いています。
■高いSEO効果がある理由
一方、最近はブログをビジネスに活用するユーザーの動きも出てきています。その最大の理由は、高いSEO(検索エンジン最適化)効果が期待できる点にあります。つまり、ブログで日記を書くと検索結果が一番上に来やすいということです。
では、なぜブログで日記を書くと検索結果が上に来やすいかというと、理由はトラックバックなどによって外部のリンクがたくさん貼られるからです。検索エンジンというのは、本質的にそのウェブサイトにリンクが何本貼られているかでサイトを評価をしています。
ブログは、ユーザーがコンテンツからコンテンツへリンクを貼る文化があり、かつ貼りやすいツールでもあるため、従来のホームページに比べてユーザーはたくさんのリンクを置いています。これによって、ユーザーがブログを見つけやすいため、そこに広告効果も生まれるのです。伊藤氏によると、あるユーザーは従来のホームページからブログに切り替えたところ、アクセス数が10倍にも伸びたそうです。
■ アマゾンのアフィリエイトが盛んな理由
皆さんの中には、最近ブログを見ていると、アマゾンの商品にリンクを張っているものが多いのに気付いた方もいるでしょう。 実は、これはアフィリエイトというシステムによって、誰かが自分のブログやホームページでアマゾンの商品を紹介すると、自分に5%のお金が入ってくるという仕組みになっているのです。
アマゾンには、アフィリエイト以外にも自分の買った商品などの商品レビューが書ける機能や、アマゾンで自分が買った商品を人に紹介できる「ウィッシュリスト」と呼ばれる機能があります。また「価格.com」という特定の商品などに関するコミュニティサイトがあり、これらが非常に盛り上がっています。
ブログは突き詰めていくと自己表現の手段であり、そこで自分のお気に入りのモノを紹介したいという人間本来の欲求と表現する場が整って、かつそこにアマゾンの場合は対価が発生するということで、非常に強い動機付けが生まれているのです。このシステムにより、アマゾンのトラフィックもどんどん上がっているそうです。
■企業内ブログの可能性
これまで説明したとおり、ブログはウェブで簡単に情報を公開できるツールであるため、最近は単に外に情報を発信する手段としてではなく、企業内のイントラネットの中で使うことによって、社員同士が情報を共有するツールにもなるのではないかということが言われています。いわゆるナレッジマネジメントとしても可能性があるということです。
伊藤氏の知る限りでも、社内でブログを活用して成功している企業が何社かあるそうです。例えば、グーグルでは、社内の情報共有ツールとしてブログを活用していたり、はてなでも「はてなグループ」というブログツールを使って
情報共有を行っています。具体的には、会議の議事録の共有や日報を日記に書き込むことによって、他の社員の動きが把握できるそうです。
ブログを企業内で活用するポイントとしては、社員一人ひとりが情報共有の価値を認識し、その意識を高めることができるかどうかが重要になります。決して、ツールを入れるだけではうまくいかず、情報交換をするポジティブな企業風土を育てていけるかどうかが重要になるということです。
2004.10.15 |