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第51回Eビジネス研究会 |
『ネットビジネスにおける、新サービス立上げの実際』
〜ビジネススキルとシステム洞察力の融合によるDeNA上場までの軌跡〜 |
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株式会社ディー・エヌ・エー
サービス開発部 取締役COO 川田 尚吾 氏
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51回目の今回は、ビッダーズやモバオク等の新規事業をいかに立上げ、成功させていったのかといった部分の数々の体験に基づいた事例を紹介して頂くため、川田
尚吾氏をお迎えしてお送りしました。セミナーでは、今後さらに増えるであろう、Eビジネス領域での新規事業立上げにおいて求められる人物像についても実体験に基づき、川田氏の持論を交えてお話いただきました。
■DeNAの起業からこれまでの軌跡
私は、今から16年前まさにバブルの絶頂期の頃、学生ベンチャーに参加していました。しかし、その頃は今の学生ベンチャーほど日当たりが良くなく、メジャーでもありませんでした。ベンチャーでそのままドロップアウトしてやっていく方法もありましたが、私は見切りをつけて地に足がついたテクノロジーベースのベンチャーをやろうと大学院生活を送っていました。
当時の仲間はどうしていたかというと、やっては失敗し、やっては失敗しの繰り返し。でも最終的には実力を付けて力強く離陸していきました。私はそれを横目で見ながら、テクノロジーを極めるため大学院生活をしていましたが、自分もそろそろビジネスの世界に戻りたいなと思いました。とはいえ年齢も重ねてきたので普通には戻れないということで、一度コンサルティング会社に入ることに決めました。そこで現在DeNA代表取締役社長の南場智子と知り合うこととなったのです。それから何年かしてネットがブレイクし、アメリカでかなりオークションがブレイクしていることを知りました。このオークションを日本でやらないか?と南場に誘われたことがきっかけでコンサルティング会社を辞めたのです。
何も無いところでビジネスを始めました、DeNAの1本目の電話線は自宅にひき、移動はスクーター。スクーターが事実上オフィスといった状況でした。お蔭様で先々月上場しましたが、本当にゼロのところから今の上場までの道のりは険しく、実に1枚1枚紙を重ねていき、重ねて重ねてここまで来たという感じです。
本当に会社がゼロの状況からどうやって大きくなっていき事業として立上げる中でどんなことをしてきたのかをご説明していきます。
■ネット上のサービス事業立上げの難しさ
サイトを作るというと楽しげな話に聞こえますが、実際ビジネスとしてサイトを運営するということは、結構大変なことです。経験上ビジネスベースのサイトを作成するには、色々なことを考えて作成しないといけないことが見えてきました。そのギャップは何なのかを以下にまとめました。
非ビジネスベース
・自分の作りたいものを作る
・自分の満足するクオリティー
・サイトがたまに止まっても気づいた時に復旧すればよい
・課金業務はない
ビジネスベース
・ユーザーの満足するものを作る
・ユーザーが満足し、競合に勝ち、コスト的にもペイするクオリティー
・サイトが止まると損失が発生
・課金業務がある
自分の作りたい面白いものを自分のペースで作成してきたものが、ビジネスベースになった途端、様々な条件を考慮し、永続的にサービスを提供しつづけられる仕組みを立上げないといけません。サイトをビジネスベースで立上げるときは、各種専門分野にまたがる様々な制約を考慮する必要があります。ユーザーの視点では利便性・面白さ・セキュリティぐらいしか考えていませんでしたが、それでは考慮不足で競争という視点を考慮しなければ、永続的に続く仕組みにはならないのです。競合(営業、マーケティング、対競合施策、将来的拡張)。コスト(運用コスト、開発コスト、業務運用)。ルール(法律−規制、商標−特許、監査−会計)。
サイトの立上げプロジェクトは、質の異なる複数のサブプロジェクトが相互に作用しながら進みます。個々のサブプロジェクトをこなすために必要なバックボーンはそれぞれ異なり、異質なメンバー同士の協力が必要となります。実際の立上げには以下のような様々な障害が立ちふさがります。
・統計的遅延/事故
・トレードオフ
・隠れタスクの発見
・不整合の整合化失敗
・不可逆性問題
これらは放置しておいても解決しないものも多く、積極的介入と修正が必要です。
経験上、基本的にサービスの立上げというものは、安定的なものではなく放っておいたら潰れると考えたほうがいいです。注意して注意しすぎということはなく、常に神経を研ぎ澄ませて、初めて成功しリリースできると考えたほうがいいですね。まとめると、様々な制約条件や様々な専門領域や様々な障壁がありますので、非常に不安定な系であり、考え抜いたマネジメントを行わないと簡単に崩壊してしまいます。
■サービス事業立上げの実際とそのマネジメント
上述のようにサービス事業立上げというのは、大変であることは理解していただいたと思いますが、では具体的にどんなことをやっていて、どのようなマネジメントを行っているのかを説明していきたいと思います。
サービス立上げプロジェクトは「サービス企画」「サービス設計」「サービス開発」「ビジネス準備」の4プロセスに大別できます。
「サービス企画」は、サービスのWhy, What, Howについて答えを出してゆくプロセスです。
サービス企画において答えるべき課題
・(Why)なぜこのサービスなのか?
・・ユーザーニーズはあるのか?
・・競合に勝ち目はあるのか?
・・将来性があり、もうかるのか?
・(What)どのようなサービスなのか?
・・誰にどのような価値を提供するのか?
・・具体的にどのようなサービスを提供するのか?
・・鍵となる仕掛けは何か?
・(How)どのように実現するのか?
・・どのような仕組みで実現するのか?
・・どのような手順で立上げを行うのか?
・・何が必要でいくらくらいかかるのか?
世の中上手くいく仕組みとは、後追いで見ると実は"あるところがポイント"だったということが結構あり、端からみているとよくわからないのですが、詳しく見てみると重要なポイントがわかったりします。それがある程度見えるぐらいきちんと企画の段階で煮詰めて調査していくことが大事だと思います。
「サービス設計」は、サービス企画により選出されたラフイメージと多様な観点からの要求を具体化・整理・仕上げをしていくプロセスです。
具体化
・サービスの具体的な定義
・必要な業務の設計
・各種観点からの問題点抽出とその吸収
整理
・優先順位付け
・類似機能の一般化
・不要手順の正規化
・ポリシーに基づく削除・変更
・相互矛盾の排除
仕上げ
・ドキュメント化
・プロジェクト全体線表の導出
「サービス開発」は、コンテンツ開発・アプリケーション開発・インフラ構築をしていくプロセスです。
コンテンツ開発とは、サービスを実現するために必要なユーザーインターフェースを設計し、これを制作するプロセスのことを言い、アプリケーション開発とは、アーキテクチャ設計やDB設計を含むソフトウェア開発を行うプロセスを言います。インフラ構築とは、アプリケーションを稼動させるために必要なハードウェアを構成し、これにアプリケーションを組込み、最終的に実働するサービスとしてユーザーに提供するプロセスです。
ある一定規模以上のトラフィックが集まるサイトでは、パフォーマンスが非常に問題となります。パフォーマンスの解決はアプリケーション側でもできますが、ハードウェアの選択や構成で解決することが多いので、非常に肝となっております。かつ、ビジネスを運営していく上でハードウェアを今後どのような計画で増強していくべきかコスト的には非常に会社の収益を左右するポイントとなる技術領域です。よって、それを見極める目を持つことこそが、ネットサービスにおける成功の鍵になるのではないかと思います。
「ビジネス準備」は、立上げるサイトにより、様々な要素を含みうるタスクを行うプロセスです。
営業
・営業業務フロー確立
・申し込み用紙準備
・テスト営業
マーケティング
・誘導計画
・キャンペーン準備
・初期商品の仕込み
サポート
・ヘルプ/マニュアル準備
・FAQ準備
・要員採用/トレーニング
アライアンス
・契約
・連携業務フロー確立
必ずタスクが遅延したり稼動しなかったりという問題が発生します。そのようなときに、全体のタスクを見て、問題があり次のタスクにいけない場合は、他のタスクで先手を打って、問題があるところが多少遅れても大丈夫なように対策を打つなどして縦横無尽に動き、きちんとマネジメントしていくことが重要です。
事業を立上げるということは、新しい取り組みのため答えの前例がありませんし、ゼロから考える必要があります。関連領域が多岐にわたり、そもそも今の体制が正しいかも不明です。そんな中、特に境界領域で未知のタスクが潜んでいる可能性が高いですが、プロジェクト成功のためにはメンバーが共通目標のもと、互いの領域、タスクに踏み込むことが大切だと考えています。
■Eビジネス領域の事業立上げにおいて求められるスキルと人物像とは
システムとビジネスを両方わかった人物でないと、非常に秀でた戦略は実現できないと感じています。システムだけを理解しマネジメントを行ったり、ビジネスだけを理解しマネジメントを行ったりしていては、秀でた戦略は実現できず、ビジネス・システム・マネジメントの3つをバランスよく伸ばして成長していくのが重要だと思います。そして、その3つをバランスよく伸ばす場所としてはベンチャーがまさしく最適だと思います。立上げ期の混沌は人を育てる最高の土壌です。日本の大企業ではビジネス・システム別々に人が育っていくことが多いですが、まさにベンチャーで3つをバランスよく伸ばした人材こそが今後ネットビジネスを引っ張っていくのではないかと思います。
2005.4.21
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