58回目の今回は、潟lットプライス社長室の伊藤 直氏を迎え、モバイルコマースの今後と次世代の流通モデルについて、ネットプライスの戦略を交えてお話しいただきました。
■ネットプライスとモバイルコマース
モバイルショッピングサイトの仕組みは非常に簡単で、携帯の画面上に商品の画像と説明を表示し、それをクリックするとPCのEコマースサイトと同じように商品が買える仕組みになっています。
2005年9月にスタートした「ちびギャザ」は、ネットプライスが独自にチャネルを作り上げ大成功したモバイルショッピングサイトで、現在、ドコモ、au、ボーダフォンの公式サイトとして登録されています。最大の特徴は、「ギャザリング」と呼ばれる、段階的に商品の価格を設定し、お客様の申込み数が集まるほど価格が下がっていく共同購入の仕組みにあります(ギャザリングは、ネットプライスの登録商標です)。一概には言えませんが、通常価格に比べ最大2〜3割は安くなるといいますから、お客様にとってのメリットは大きいといえるでしょう。
一例を挙げると、販売価格が15,000円の商品の場合、購入申込み数1〜4個が15,000円、それが5〜9個に増えると12,800円、10〜500個に増えると9,800円・…というように、人が集まれば集まるほど価格は下がっていきます。また、購入者は、商品に対するコメントを残していくことができるため、中には「テレビドラマで俳優が使っていた商品です」といったコメントの付いた商品が、爆発的にヒットするということもあります。
ネットプライスでは、ショッピングサイト上で販売する商品の仕入から物流、販売後のカスタマーサービスに至るまで、物販に関わるすべての事業を自社で行っており、この点でも特徴的なビジネスモデルであるといえます。
■在庫を抱えないギャザリング方式の強み
現在、ネットプライスでは、ギャザリング方式を使った様々なモバイルコマースサイトを展開しており、「ちびギャザ」をはじめ約120のギャザリングショップがあります。その仕組みは至ってシンプルで、一般的な小売業のそれと変りありません。つまり、メーカー・卸問屋といったベンダーに商品を発注し、仕入れ、お客様に販売するというスタイルです。
小売業の基本は「お客様にいいものを安く提供する」ことだと思いますが、価格を形成する上では当然、利益についても考えておく必要があります。そこで、最もネックとなるのが「在庫」です。不良在庫がリスクとしてあれば、その分を価格に上乗せすることになり、結果としてお客様は在庫分のお金まで負担しなければならなくなります。ギャザリング方式は、この在庫を一つのキーワードとして捉え、ネットを使って在庫を解消する形で商品をまわすことができないかという発想で始まったモデルです。
一般的に在庫が出る理由は、お客様が欲しいと思っている以上に商品を作ったり、仕入れてしまうことです。しかし、ネットを使えば、売れ筋、死に筋商品をスピーディーに見極めることが可能となり、お客様が欲しいと思っている商品をアップ・デートで掲載することによって、在庫のリスクをなくすことができるのです。
「ちびギャザ」では、通常約700の商品が掲載されていますが、それらは毎週入れ替えが行われ、死に筋商品を外し、売れ筋商品を前面に出すことで更新感を出し、販売機会を逃さないようにしています。こうした在庫リスクの解消が、ギャザリング方式の最大の「強み」といえるでしょう。
また、価格設定については、一週間という期間を決め、その間に購入申込者が何人集まったかによって価格を決めます。商品はその後に発注するため、当然在庫はなくなるわけです。
■ メディアとの連携により集客効果をねらう
ネットプライスでは、このギャザリングの仕組みを使って、より売れている商品をお客様に提供するために、メディアとの連携により相乗効果をねらう「メディアミックス戦略」を展開しています。
例えば、雑誌やフリーペーパーなどの紙媒体、ラジオ局、着メロ・ゲームメディア、さらにファーストフード店などのリアル店舗とも提携してギャザリングを展開し、携帯で商品が買えるような仕組みを作っています。
各種メディアを通じて、色々なところからお客様に集まってもらうことのメリットとしては、人が集まれば集まるほど価格のメリットをお客様に還元できるという点にあります。
また、商品の仕入れから販売といった一連の流れの中で、各メーカーや商社などとのつながりは欠かせません。現在、約650社と提携・協力関係を結んでおり、業種も家電・時計メーカー関連、ファッション・コスメ関連、生活関連、食品・グルメ関連、健康関連など商品の種類に比例して、幅広いネットワークを形成しています。
■お客様のリクエストをベースとした商品設定
ネットプライスが、サイトに掲載する商品を選定する際にベースにしているのは、お客様からのリクエストです。これは、今後ネットを使って商売をしている企業すべてが戦略として活かしていくべき部分であると思います。
一般的に、リアル店舗を通じて商売する小売りの場合は、メーカーから商品を仕入れて販売する「販売代理店」の役割に止まるのに対し、ネットを使ったビジネスの場合は、お客様からの声がレスポンスとして分かりやすく入手できるというメリットがあります。つまり、それにあわせてビジネスを変えていくことで、無駄の少ない効率的なビジネスが可能になってくるのです。
ネットプライスには、月間約5,000〜6,000件のリクエストが寄せられます。例えば、「この商品を販売して欲しい」「こんな商品が欲しい」といった要望から「テレビで紹介されていたあの商品はいい」といった評判的なもの、また「テレビで芸能人が付けていたあの商品はどこのブランドですか?」といった質問まで、様々な意見が寄せられます。こうした声をスピーディーに商品選定に反映させることで、売れ筋の商品を作り上げていく工夫をしているのです。
中には、お客様の「こんな商品がほしい」といったリクエストに応えて、メーカーに企画を持ち込み、オリジナル商品を開発・販売することもあります。
現状では、売上の約15%をこうしたオリジナル商品が占めているといいます。
さらに、こうしたオリジナル商品がネット上で人気が出た場合は、東急ハンズやロフトなどリアルの店舗でその商品を販売してもらうといった、逆方向の流通も行われています。このように、ネットを通じた新しい流通の仕組みが、今後はますます増えてくるのではないか、と伊藤氏はいいます。
■ ネットを軸とした流通の仕組み
では、ネットを通じた流通ソリューションは、今後どのような方向へ進化していくのでしょうか。
今までの小売りは、メーカーやベンダーから商品が流れてきてお客様に販売するといった、ある意味、一方通行なビジネスが多かったわけですが、ネットの発達によって、お客様の声を反映する双方向の可能性が増えたと伊藤氏は言います。だからこそ、ネットプライスではメディアミックスなどを通じて、多くのお客様にギャザリングに参加してもらうためのネットワークを作り上げているわけです。
また、商品情報についても同じことがいえます。今までは、ベンダーから小売への一方的な情報提供だったものが、様々なメディアを通じてお客様の情報が小売りに集まるため、それをベンダーに提供できるようになり、双方向の情報交換によるメリットが出てきます。
ネットを使った物販は、今後、「販売の代理店的な役割」からベンダーとお客様をつなぐ、いわゆる「御用聞き」の位置付けに変わっていくと伊藤氏はいいます。それによってビジネスの無駄も少なくなり、お客様のほしい商品をタイムリーに提供していくことが可能となるわけです。
2005.9.22
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