81回目の今回は、株式会社魔法のiらんど代表取締役の谷井玲氏をお迎えして、『ケータイ小説発行部数522万部、脅威を誇るクチコミのメカニズム』をテーマに、魔法のiらんどのビジョンや、ケータイ小説の著者と読者を結ぶコミュニティーを支えるシステムについてお話いただきました。
■魔法のiらんどの生い立ち
株式会社魔法のiらんどの前身は、平成元年4月26日に設立したコンピュータのシステム系の会社でした。
最初の10年間は、技術系の会社としてNTT関連を中心とした大型コンピュータの性能評価を行っていました。NTTデータの案件が70%という比率の時代もあったほどです。NTTがiモードを開発した際、iモードで何かできないか、という技術研究の一環で生まれたのが「魔法のiらんど」だったのです。
実は、「魔法のiらんど」は息子との会話から生まれたのです。家族で食事に行ったとき、高校生の長男が机の下で携帯電話をいじりながらケラケラ笑っていたのです。私が「何やってるの?」と聞くと「チャット」だと。「あのPCのチャットを携帯で? おもしろい?」と話が盛り上がり、何人かの人がケータイでチャットができたらスゴイだろうというアイデアができました。
どうせならチャットだけでなくケータイで自己表現ができるものにしようということで、ホームページ作成サービスが生まれたのです。当時「魔法のiらんど」というネーミングは5分で考えました。99年2月にiモードが生まれ、「魔法のiらんど」開設はその年の12月です。オープン3ヶ月で1日120万PVに達するようになりました。
■「魔法のiらんど」の機能
「魔法のiらんど」には、ホームページでの豊かな自己表現に加え、ブログ、掲示板、プロフィールなど30種類以上の機能があります。
最近注目を集めているケータイ小説は、BOOK機能で執筆されており、約72万人が使っています。
ユーザーの表現活動を促進するために「iらんどチャンネル」というポータル・サイトがあります。
その中のケータイ小説に関するポータル・サイトが「魔法の図書館」であり、ランキングやジャンル別検索などで小説を探して読むことができ、レビューや掲示板に自分の評価や感想を書き込むことができます。小説を探しやすいこと、読みやすいこと、著者と読者がキャッチボールを楽しめることを目指しています。
■自浄機能としての「アイポリス」
「魔法のiらんど」はデジタルだけど血が流れていると思っています。毎日、大手町にあるサーバのコンピュータの中から人が生まれていくような感覚があります。
そこでは、ユーザーたちが心を通わせたり、友達を増やしたり、自己表現をしたり、時にはケンカもしています。
一方、アダルトサイトも入ってきます。当初のユーザーは中・高校生だったので、安心して楽しめるサービスを実現するには、アダルトサイトをチェックして閉鎖する必要がありました。トラフィックに比例してチェックの量は増えてきます。「援助交際」などのNGワードは機械的に判別も可能ですが、「死」という言葉なら場合によって人手で判断しなければなりません。
「死ぬ気で」という言い回しなら使って構わないわけです。
このような誹謗中傷や公序良俗に反する表現などのNGワードをチェックし、健全なコミュニティーを維持するために、「魔法のiらんど」開設の1週間後に「アイポリス」を作りました。専任スタッフによる目視チェックと啓蒙活動も重視しており、24時間体制で巡回するとともに一人ひとりのユーザーにプライバシーや著作権などの知識、規約違反の理由を説明し、納得してもらうことに時間と労力を割いてきました。
現在はユーザーのおよそ6割が女性、月間PVは19億となっており、日本の実人口のかなりの占有率を占めています。ここまでの成長は、「アイポリス」の活動なしには成立していないでしょう。
また、「魔法のiらんど」では、ユーザーが今までに書いたログのすべてを保存しています。その契機となったエピソードがあります。「魔法のiらんど」で日記を書いていた、若いお母さんが亡くなりました。その方のお母様が残されたお孫さんの手を引きながら会社を訪れ、「魔法のiらんど」を支えとして娘は最後まで書き続けた、と感謝の言葉をいただいたのです。その時考えたのは、過去の全データはユーザーの命だから消してはいけないということでした。
■ケータイ小説が生まれ、広まる理由
ケータイ小説は、プロの作家ではなく一般のユーザーが書いていることが特徴であり魅力です。読者とのコミュニケーションによって作品が変化するという現象が起こります。例えば、最初は悲劇の設定であったものが、読者とコミュニケーションを重ねる中でハッピーエンドに変わることがあります。
高校生を調査してみると、高校生たちは活字離れをしていないことが分かりました。電車の中でカッコよく小説を読みたい。でも、読みたいものが見当たらない。大人が読んでいるスポーツ新聞は「活字」と言えるの? そんな声が集まってきます。本屋さんが決めたランキングはおじさん達が決めたもの。それに対して、自分達が選んだ信憑性の高いランキングにしたがって小説を読みたい、それがケータイ小説に中・高校生が共感する理由のひとつなのです。
■ケータイ小説の出版と今後
ケータイ小説の出版化のきっかけは、ユーザーの一本の電話でした。「魔法のiらんど」で人気の小説『天使がくれたもの』のファンが出版社に電話をかけ、涙ながらに話をしたのです。
ユーザーから寄せられる声では、「モノとして置いておきたい」「本になっていれば、いつでも読めるし、宝物になる」など、ケータイ小説の出版に対して肯定的な意見が挙がっていました。とは言え、高校生が本当に買ってくれるのかは手探りの状態だったのです。蓋を開けてみると、サイト上で小説を読んでいる若いユーザーが実際に書籍を購入していることが分かりました。
「自分が応援した小説を宝物としておいておきたい」というユーザーの気持ちを大切に考えて、1000円前後という手頃な価格で宝物になるようなパッケージにすることを出版社に求めています。
出版化の際には、「魔法のiらんど」上でのプロモーションも行っております。
ミリオンセラーとなった『恋空』は、主人公の男性が亡くなった10月14日を発売日とし、特設サイトで告知を行いました。すると、書店に行列ができるという現象が起こったのです。ケータイ小説は、書籍だけでなくコミック雑誌としても出版されるようになりました。20、30、40万部と読まれた小説がコミックになっています。コミックはデータ化もされており、コンテンツがリアルにもバーチャルにも存在しています。
企業とのタイアップキャンペーンも「魔法のiらんど」ならではの方法で展開しております。ビジネスっぽくない作りで演出を行いながら、ユーザーを巻き込み、企業・商品のブランディングや販売促進、イベントの集客などの施策を行っています。すでに、化粧品の体験談募集・アンケートなどユーザー参加型の企画からのコマースサイトへの誘導や、映画の試写会と掲示板の書き込みを連動させたクチコミの創出などの事例があります。
ケータイ小説の場合も、企業とのタイアップキャンペーンの場合も、ユーザーコンテンツを中心にクチコミが広がっています。
「魔法のiらんど」が、書き込みなどの情報発信を好むユーザーが集まるCGMである証拠と言えます。
今後も、ユーザーがコンテンツを生み出すような表現活動をサポートし、安心して楽しめるサービスを提供することに努め、ユーザーと共に成長していきたいと考えています。
● 質疑応答
Q1 |
ケータイのSEO対策はどのようにされていますか?
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A1 |
これまでは、SEO対策を行っていませんでした。ケータイならではの探し方や広がり方が存在していたことが理由です。最近では、ケータイでも検索することが一般的になりつつあるので、対策を検討しております。
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Q2 |
音楽サイト「iらんどミュージックファクトリー」について教えてください。
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A2 |
「魔法のiらんど」のユーザーの70%が、音楽に興味があると答えており、音楽サイトにも大きなニーズがあります。「魔法のiらんど」のアマチュアミュージシャンが音楽という表現活動を楽しんでもらえるように開始したサービスです。
ユーザーがオリジナル楽曲をアップロードし、スタッフが著作権等のチェックをした後、公開されます。何人の人が音楽を聞いたかなどによってランキングが発表される仕組みになっています。
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Q3 |
アフィリエイトの導入予定はありますか?
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A3 |
ユーザーからアフィリエイトを望む声が挙がり、かなり以前にアフィリエイトを取り入れたことがあります。
しかし、たとえユーザーがルールを守ってアフィリエイトを行っていても、広告によって誘導される先が問題になりました。行き先がアダルトサイトになったこともあり、それらの規制ができないため、中止しました。ユーザーにとっても、自分が良いと思っているものを紹介して、謝礼が入れば嬉しいことですので、適切な規制のもと、アフィリエイトを運用できないか検討を行っています。
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Q4 |
紙メディアに対してどのようにお考えですか?
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A4 |
紙とケータイは全く別のものであると考えています。紙には紙の良さ、ケータイにはケータイの良さがあります。補完的な面もあり、相乗効果を生み出せると思います。紙とケータイが争うのは、もったいないことです。
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Q5 |
「魔法のiらんど」のサービスについて、有料制への移行は予定されていますか?
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A5 |
「魔法のiらんど」は、開設から8年間すべて無料で、今後も無料サービスを継続する予定です。それとは別に、「魔法の図書館プラス」というサービスを月額300円の有料で提供しています。「魔法の図書館プラス」は無料で読めるケータイ小説に新たな価値を加えて有料で配信するサービスです。また、小説をコミック化したデータも有料で配信しています。
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Q6 |
30代のモバイルユーザーとコミュニケーションするための施策はありますか?
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A6 |
現在、「魔法のiらんど」のユーザーの中で20歳以上の方が60%に達しています。開設から8年間を経て、ユーザーも年をとったのです。「魔法のiらんど」開設日である99年12月14日からその年末までの間に入会したユーザーが2.4%の割合で存在するなど、多くのユーザーが長く利用していることは注目に値します。下の年齢層も同時に増えています。
書籍化された「赤い糸」の作者は7年間「魔法のiらんど」の利用を継続しているユーザーです。その作家に聞くと、7年の間に、「魔法のiらんど」の使い方を「自分で変えてます」とのこと。表現の場を変えたり、友達を変えたり、ユーザーも一緒に成長してくれています。
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