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■ Report
  
第84回「Eビジネス研究会」                         平成19年6月8日(金)

〜シリコンバレー特集〜  
   
テ   ー  マ:

           『シリコンバレーに学ぶ』
 〜日本でベンチャーが居心地よく

             活躍できるにはどうしたらよいか〜

 
       
『シリコンバレーのエコシステム:
               インネットワークがキーワード』

 〜USと日本でベンチャーを創業した理由〜

   
Eビジネス:
マイスター
経済産業省 経済産業研修所 所長
原岡 直幸 氏

株式会社レペリオ  (※ホームページは策定中)
代表取締役 原 邦雄 氏
    
当日の様子はこちらから 当日の資料(抜粋版)はこちらから
      
『シリコンバレー
に学ぶ』
『シリコンバレー
のエコシステム:
インネットワーク
がキーワード』

『シリコンバレーに学ぶ』
経済産業省 経済産業研修所 所長 原岡 直幸氏




■シリコンバレーの素晴らしさ


シリコンバレーはベンチャーのメッカと言われています。私はエンジニアではないし、ITとは無縁の世界で仕事をしてきました。しかしながら、シリコンバレーに行き、そこで働く人達の生き方に非常に関心を持ちました。今日は、皆さんにシリコンバレーの素晴らしさを分かってもらいたいと思い、お話させていただきます。
まずは、シリコンバレーの3大特徴についてお話しします。

■アカデミズムとビジネスを仲介する人々の存在


シリコンバレーには、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などがあります。将来の技術のシーズになるような研究が行われており、ITだけでなくバイオテクノロジーの分野も盛んです。大学とベンチャー企業が一箇所に集結している―ハイテクベンチャーを支える環境があるということが第一の特徴です。

そこには、ベンチャー企業を成功に導く超一流のネットワークがあるのです。ベンチャーキャピタリストやコンサルタント、会計事務所・法律事務所、ヘッドハンター、そして大学やNPOに至るまで、サポート役をしてくれる人が多数存在します。

アメリカでは「文系」「理系」という区別がほとんどないに等しい点が、日本と違うところです。エンジニアのdegreeを持っている人が、ビジネススクールやロースクールのdegreeも持っていたりします。つまり、アイデアとビジネス化の両方を考えることができる人がいるわけです。

このように、アカデミズムの世界とベンチャーの世界を両方知っている人材が揃っていることがシリコンバレーの強みであると言えます。

■文化的多様性


2つめの特徴は、文化的多様性です。シリコンバレーで働く人のうち、白人は40%にすぎず、アジア系が33%を占めています。中でも多くの割合を占めるのは、インド人や中国人です。

インドや中国へは、ソフトウェア開発を中心にアウトソーシングが発達しました。当初はアウトソーシングによってアメリカ国内の雇用が逃げるのではないかと問題視されましたが、最近は失業率が減少し、その指摘は的外れであることがわかってきました。

アウトソーシングによって安く製品を作ることが可能になり、企業収益が改善するにつれて、雇用の増加を生んだのです。今では、シリコンバレーでアウトソーシングを心配する人は少なくなっています。

グローバリゼーションが叫ばれるようになりましたが、日本ではまだ、外国と仲良くすると商売を盗まれるのではないかと心配する人のほうが多いのではないかと思います。私は、最初から海外にアウトソーシングするという発想のほうがむしろうまく行くのではないか、外国企業と競争するのではなく逆に活用していくほうが成功への近道なのではないかと考えています。そのビジネスモデルをうまく実現しているのがシリコンバレーなのです。

■ネットワーク社会のヒエラルキー社会に対する優位


日本の社会は、ヒエラルキーの制約の中でしかコミュニケーションが行われないのが現状です。上司と部下の間にはコミュニケーションのルールがあり、会社には「系列」があって、その中で交流が完結してしまうこともあります。

それに対して、シリコンバレーではネットワーキングが盛んです。会社が異なっても、ランクが異なっても、自由にコミュニケーションができます。例えばGoogle社の場合、CEOと一般社員の間には差がありません。名刺には業務の責任範囲だけが書いてあるので「何をしている人か」が分かるだけです。
日本のような肩書・ランクは書かれていないのです。情報がオープンな分、転職も盛んです。在職年数の平均2〜3年。すぐ辞めてしまいます。Google社では離職を食い止めるため、福利厚生も充実しています。

■シリコンバレーの教訓


私がシリコンバレーで学んだことの一つめは、「失敗は成功の基。失敗しても挑戦し続ける人に、ベンチャーキャピタルも含めて寛容である」ということです。失敗自体は恥ずかしいことではありません。日本には「世間に顔向けできない」というように失敗を恥とする文化がありますが、シリコンバレーでは失敗してもバツはつきません。ただし、失敗を人のせいにしたり、失敗したことを卑下していると軽蔑されます。

二つめに、「年齢・性別などに関する既成概念からの解放」ということを挙げたいと思います。日本では、性別に関する差別は改善されつつありますが、年齢に関してはまだまだ制約の多い社会です。カリフォルニアの労働法では、「年だから辞めてもらおう」と言おうものなら違法になります。年長者は敬うべきだ、年を取れば出世できるという儒教的文化がないかわりに、年齢に関係なくチャンスがあり、何歳になってもあきらめる必要がないのです。


そして最後に、「既存の権威に対する反抗がイノベーションの推進力になっている」のだと思います。反抗は言いすぎでも、批判的な目で社会を見ることが必要だと思います。

また、シンクタンクの活用にも注目しています。異なる分野の研究者で構成され、さまざまなアイデアを社会に発信しています。シンクタンクはイノベーティブなマインドを作り出すもとになっていると思います。日本でもシンクタンクが出てくれば、シリコンバレー型ベンチャーキャピタルが生まれるのではないでしょうか。


 最後に付け加えますと、IT産業はベンチャーが起業しやすい分野であると同時に、組織の改革が絶えず求められる分野であると思います。そこには、CIOの定着が必要です。情報システムを経営に生かしていく力です。そのための職業教育を考えていきたいと思っています。

■質疑応答

Q1 シンクタンクは誰が資金面をサポートし、どのような人が働いているのですか?

A1 日本のシンクタンクは特定の企業が丸抱えしていますが、シリコンバレーではフィランソロピー活動が盛んです。そのため、独立、中立的活動ができるのです。そこで働く研究員は必ずしも学者ではなく、役所や企業出身者もいます。シンクタンクを経て、政治の世界、実業界、学界などで活躍しています。


Q2 ITバブル崩壊の原因は何だと思いますか?

A2 十分なお答えはできないのですが、景気循環的要素があったと思います。もう一つの背景は、文化的多様性です。中国・インドなどのエンジニアが本国に帰ったため、見かけ上の失業率が上がったように見えたのだと思います。


Q3 シリコンバレーにある日本の拠点は?

A3 日本企業では、住友スリーエムなどが活発に活動しています。また、地方自治体も「福岡県サンフランシスコ事務所」「大阪府カリフォルニア事務所」など拠点を設立して情報提供を行っています。またJETROもビジネスイノベーションセンターを設置し、日本発ベンチャー企業の対米進出を促進しています。


『シリコンバレーのエコシステム:インネットワークがキーワード』
株式会社レペリオ 代表取締役 原 邦雄氏




■シリコンバレーで起業するに至るまで


私は、1983年に住友商事に入社しました。商社に入ったのは海外で仕事をしたいということと、社費で留学し、MBAが取れる制度があったためでした。
ところが、入社してみるとMBA制度は形骸化。自費で行く覚悟で入学試験を受けたのですが、当時の上司の働きかけで社費留学が復活し、念願の留学を果たしました。
夏休みにサマーインターンシップがあり、ウォールストリートのソロモンブラザーズという証券会社で働くことができました。アメリカの実社会はビジネススクールの比ではなくコンペティティブだったことが印象的です。

帰国後、住友商事で留学させて頂いた恩返しを少しでもしようと3年間勤務しましたが、留学やサマージョブによって芽生えた外の世界で自分を試したいという気持ちに抗しきれず、1991年に留学仲間の紹介で孫正義社長に出会い、ソフトバンクに入社しました。面接ではほとんど質問をされず、孫社長が自分の夢を語るのです。


当時のプロジェクトは、ソフトウェア流通の改革がテーマでした。「どうしてデジタルのものを箱に入れてお店で売っているのか? デジタルで売るということをどう実現するか?」というテーマに取り組みました。孫社長のもとでの仕事は2回目のビジネススクールに行ったかのようでした。しかしながら当時ソフトバンクはインフラ事業に徹する方針であり、テクノロジーを生み出す側で働いてみたい私の意識とズレが生じるようになりました。

そして1995年、偶然秋葉原で見た3DCGのテクノロジーに衝撃を受け、その開発元であったシリコングラフィックス社(SGI)に入社を決めます。日本SGIのアジア経営戦略担当として1年間転勤をした後、アジアのヘッドクオーターをアメリカの本社の中に作るという企画を立案し、駐在させてもらったのがシリコンバレーへ行ったきっかけです。

当時のSGIはサンマイクロシステムズなどと並んでシリコンバレーで一番伸びていた会社です。駐在期間が終わっても帰りたくなかったので、ローカル採用で入社し直しました。入ったからにはグローバルなチームのトップになりたい。あるテクノロジーソリューションチームのリーダーになってそれを実現した後は、「次は自分でやるしかない」と起業の意志を固めました。

SGIで一番得たものは人脈です。伸びている会社には優秀なプロフェッショナル人材が集まります。キャリアホッピングの盛んなアメリカでは彼らは3年か4年で会社を移っていきます。人が散らばってネットワークを作るのです。

■GAPの事業内容


私が米国で起業したGAP(Global Alliance Partners)の事業内容は2つありました。一つは、米国ベンチャーの発掘と国際ビジネス支援、もう一つはM&Aや投資を通じた企業成長支援です。これは、日本側のクライアントが米国企業に投資するのをサポートする仕事でした。2つの事業で、合計60社か70社のサポートをしていました。

支援したベンチャーの中には買収されたり、立ち上がらなかった会社もあります。成功した会社の中で印象に残っているものは、例えばTivoという会社。DVRサービスのパイオニアであり、HDDに録画するという技術が一般に普及する前から、日本企業の「次世代家電」開発に対して技術提供を行っていました。
また、Keyholeという会社。膨大なイメージデータの処理技術で成長し、Googleに買収されて、現在のGoogle Earthのエンジンとなっています。Liquidnetという会社はオンライン取引所として、機関投資家間のクローズドな株のトレードで大成功しました。

■シリコンバレーのキーワード


 こういった経験から学んだことは、「すべての始まりは職場から」ということ。成功体験をもとにしたグループが強い絆で結ばれ、さらに大きな仕事をする。つまり「職場閥」を大事にしなければならないということです。


次に「リファレンス」の大切さです。ビジネスのキーパーソンに会うには、誰かの紹介を受けること。また、誰に紹介してもらうかということも大事です。リファレンスを得るためには「トラックレコード」、つまり自分を証明することが必要です。大企業での実績でなくてもかまいません。何かをやって成功させたということが証明できればいいのです。


このように、トラックレコードを持ち、リファレンスを得ることで、新しいチャンスが手に入り成功できるというのがシリコンバレーで学んだことです。正しいことをしようとしていたら必ずチャンスは来ます。


また、アメリカでよく言われることに「インテグリティー」という言葉があります。これは、誠実さとか、人をだましてはいけないということを意味します。実利を重視すると見られがちなアメリカでも、正直や誠実という精神がとても重視されていたこともお伝えしたいと思います。

● 質疑応答


Q1 日本に戻って起業するきっかけとなったオンラインマーケティングとの出会いはどこにあったのですか?

A1 シリコンバレーには小規模のセミナーやランチミーティングがたくさんあります。そのような少人数の場で話をしたことがきっかけです。


Q2 日本企業がシリコンバレーで成功するには?

A2 日本企業がアメリカに行ってモノを売るのはサクセスレートが低い。その中で成功できるとすれば、成功している人と知り合っているか、その人がトラックレコードを持っていて実績のある現地の方のリファレンスを得られるかということが、必要な条件になると思います。


Q3 シリコンバレーでのキャリアの中で、苦労したことや負の側面を見たことは?

A3 SGI本社に入ったときは、英語で本当に苦労しました。アメリカ本社で、アメリカ人と対等に話す英語力は並大抵ではありません。日本以外のアジア人のほうが自己主張に長けていました。英語ができないと論外という状況に追い込まれたことで吸収力がつき、ある瞬間を境にウソのように話が通じるようになりました。また、負の側面としては、最終的なジャッジメントが経済的なリターンでされることが多いことです。日本であれば様子を見るような局面でも、短期的にリターンを得られるかどうかで判断されたことでした。


Q4 シリコンバレーでは、ビジネスのシーズを作った人と、それを大きくした人とでは、どちらが尊敬されますか?

A4 どちらも同じように尊敬されます。創業者も経営者も両方が重要だからです。開発をする人とビジネスをする人では違うスキルが必要です。シリコンバレーはベンチャーを伸ばす懐が深く、一つビジネスを成功させて次のベンチャーを求めて動く人は尊敬されるのです。

2007.6.8
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