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■ Report
  
第91回「Eビジネス研究会」                         平成19年10月12日(金) 
   
テ   ー  マ:

『アメリカの物まねはもうやめよう!
−エンタープライズ2.0でグローバル市場に挑戦するリアルコムの戦略』
〜エンタープライズソフトウエア分野で
                     日本発のグローバル企業を目指す〜

   
Eビジネス:
マイスター
リアルコム株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
谷本 肇 氏
    

91回目の今回は、リアルコム株式会社代表取締役社長兼CEOの谷本 肇氏をお迎えして、「アメリカの物まねはもうやめよう!」と題して、エンタープライズ2.0でグローバル市場に挑戦するリアルコムの戦略についてお話しいただきました。


■ P to P (Person to Person)―「人」中心のワークスタイル


リアルコムが企業ビジョンに挙げていることの1つは、ITを通じて新しいワークスタイルを実現するということです。我々はそれを、P to P (Person to Person)と呼んでいます。これまでのB to BやB to Cという区分は、ある意味あいまいな定義であったと思います。会社で働いていたらB、家に帰って買い物したらCと、TPOによって1人の顧客が変わってしまうからです。我々は、企業を超えた「人」をテーマにしていることをご理解いただきたいと思います。


組織ではなく人を中心にするということは、自律判断中心のワークスタイルを意味します。MITのトマス・マローン教授が、グローバルエクセレントカンパニーを例にとり、うまくいったプロジェクトを分析した結果、21世紀の組織はこうあるべきであるという組織図を提唱しています。それによると、個人は点在しており、楕円でタスクフォースが表現されています。これまでのようなピラミッド型の組織図ではありません。個人は1つ1つの事業部、あるいは会社にさえいる必要がないのです。つまり、個人が課題を発見し、互いに有機的につながるという働き方です。


リアルコムが実現したいと考えているビジョンは、まさにこの「21世紀の組織図」に描かれているのです。身近な例では、「クラシックではなくジャズ」、「野球ではなくサッカー」を想像してみてください。


■会社設立の経緯と、成長の歴史


私は30歳のときシリコンバレーに渡り、AZCA, Inc.でハイテク・バイオ分野でのベンチャー企業コンサルティング、日米企業の提携戦略立案・実行サポートに従事していました。シリコンバレー流のワークスタイルを作ろうというのが創業の原点にありました。


会社をアメリカで設立するか、日本で設立するか迷ったのですが、東証マザーズができ、ビットバレーも生まれたという背景から、ちょうど2000年頃から「日本でできるかもしれない」と思いました。それまでは、ベンチャーでいいモノを出しても誰も買ってくれないだろう、いいベンチャーキャピタルもない、IPOの出口はどうするのか、と心配していましたが、日本もダイナミックになるのなら、やってみようと。


会社立ち上げ後、最初に始めたのはC to Cを対象にしたQ&Aコミュニティーでした。 我々のコミュニティーの特徴は、いわば「知恵のオークション」。質問する相手の顔が見えないのに信用できるのか? そんな課題を解決するために、その人がどれだけ評価されているかというレーティングの仕組みを作ったのです。


それが発展して、社内の知恵者をあぶり出すというB to Bのシステムになりました。2000年の創業当時はナレッジマネジメントという小さな市場にいたのが、2003年にはポータル市場で実績を積み「IBMと組んでいきましょう」というところまで来ました。そして2005年、会社の情報基盤を統合するというECM(エンタープライズ・コンテンツ・マネジメント)の巨大な市場に殴り込みをかけたのです。何十倍、何百倍規模の企業相手にグローバルな競争が始まりました。そのため、シリコンバレーに現地法人も作りました。


現在は、1つのシステムの中にいろいろな情報が入っているかのような検索ができるポータルを作り出すというのが主力事業です。創業後7年の間に、各業界を代表する企業にお客様になってもらいました。それが当社の強みになっています。


■エンタープライズ2.0とは


Web2.0とは2005年にティム・オライリーが定義した概念であるのは皆さんご存知の通りですが、エンタープライズ2.0とは、Web2.0の技術やコンセプトに影響を受けて進化していく次世代企業情報システムのことを指します。


Web2.0からエンタープライズ2.0にそのまま持っていけるものもあれば、持っていけないものも当然出てきますし、ちょっとアレンジすれば使えるものもあります。


Web2.0から持っていけたものの1つが集合知、CGMです。具体的には、BlogやWikiのような、誰もが参加できる知識の宝庫が構築されるようになったということです。 2つ目はSNS。SNSの普及により、物理的な距離の近さよりも趣味・興味の共通度が人間関係の構築に影響するようになりました。これを利用することで企業の情報共有が向上すると考えました。


3つ目は技術面から、マッシュアップです。ネットで提供されるサービスの連携が容易になることで、玉石混交だったWeb上の情報をうまく取りまとめることができるようになりました。 ほかにも「ロングテール」や「バーチャルライフ」などがエンタープライズ2.0に取り入れられています。


このようにWeb2.0の考え方が、企業内の情報共有を進化させたのがエンタープライズ2.0であるわけですが、まとめると、大きく7つの変化があったと言えるでしょう。


1.集合知

2.ボトムアップ・非定型

3.情報の価値の見える化:単に情報の見える化ではなく、どれくらい使えるか

4.文化人類学的アプローチ:SNSなど

5.人中心:Know-HowからKnow-Whoへ

6.バーチャルとリアルの融合

7.マッシュアップ:パッケージからモジュールの統合へ。使えるものをうまく組み
  合わせるという発想


■企業での事例


ここからは、具体的な企業の事例を見てみます。


地質コンサルティング会社のD社は、発注者との窓口になっているPMのソリューション力向上を目的として構造改革を実施しました。地質調査には設計から探査方法、環境などさまざまな専門分野があるのですが、顧客の側からは1人の担当者が全分野の専門家に見えるようにしてサービスレベル向上を図ったのです。


80:20の法則と言われるように、文書にしようとすると情報が溜まらないものです。そこで、技術分野ごとに疑問解決のためのコミュニティーを作ったり、誰が何に詳しいかというKnow-Whoデータベースを構築しました。


さらに、ログによって「情報の輸出入」を定量化し、どれくらいコミュニケーションが取れているか地域間で分析を行いました。このデータは人の異動やリアルな組織を変える際に応用されています。


次に、メガバンクA行の事例です。銀行というのは日本で最も官僚的と言える組織です。これまでは、金融庁-本店-支店というピラミッド構造の中で、支店は自ら考えなくてよかった反面、新しいことをやってはいけなかった。しかし現在では、お客様のことを考えて自律的に動かないと、銀行間や他業種との競争に負けてしまうようになったのです。そこで、お客様を頂点とした逆ピラミッドの組織に変えるために、現場をサポートする情報システムを構築することになりました。


まず実行したのは、不要なノーツの整理と情報の流れの再定義です。これまでは、本店からの膨大な情報が、出し手本位に発信され、取捨選択に非常に時間がかかっていました。これを、各担当者が売りに行く商品に応じて、商品特徴、売り方、基準など必要な情報を取り出せる仕組みに変えました。


さらに、情報の価値の見える化にも取り組みました。A行には約2万6000人の行員、総合職は9000人くらいいますが、閲覧数をカウントすると、利用度の高いもので500人くらい、多くが100人ほどしか閲覧していないことが分かったのです。情報発信者は、ただアップするだけではなく、読んでもらえるように宣伝するようになりました。


また、Webコンテンツではおなじみの、「役立った、役立たない」と評価をする仕組みも入れました。企業という上下関係のある組織ですから、匿名投稿としていますし、「非常に役に立ったが私には使いこなせなかった」などと直接的な意見を避ける傾向も見られますが、それでも十分フィードバックの効果が働いています。


SNSの要素を取り入れるために、企業で絶対に使われる「電話帳」の機能を入れたKnow-Who電話帳を導入しました。これまでは本店から支店に指示するというスタンスだったのが、回答への感謝や評価が見えることで、シンパシーを持った関係に変わりました。


このような取り組みにより、企業では当然、ビジネスメリットがあるのかどうかが問われます。そこで、具体的な効果についてふれておきたいと思います。


例えばNTTソフトでは、エンジニアどうしがコツを集めるという取り組みをした結果、ダブルワークが削減され、1年間で6000時間分の作業時間が削減されました。 ダイヤモンドリース(現三菱UFJリース)では、半年で250件の現場の気づき情報を収集できています。 製造業のA社では、どう頑張っても1年以上かかると予測されていた中国進出のスピードを15ヶ月から10ヶ月に短縮することができました。 また、ハイテクメーカーのPFUでは、データ収集に要する時間を85%に削減できたそうです。


■エンタープライズ2.0が目指すもの


21世紀型の組織改革というとき、上意下達ではダメだと言い始めたのは実は軍隊だったのです。米国陸軍は、ソマリアでの敗戦を契機に本部の命令なしでは動けない組織の限界を見直すに至りました。そこで軍は、軍隊組織をネットワーク型に変革するビジョン「Force XXI」を発表しました。


このネットワーク型組織では、直属の上官以外にも他の部隊とのコミュニケーションラインが張り巡らされており、従来司令部に集中していた情報は組織全体で共有されるようになりました。「ロケット砲を発射する権限」など大幅な権限委譲がなされ、現場が目の前の状況に対し、臨機応変にアクションを起こせる仕組みに変わったのです。


この軍隊の進んだ組織形態を企業に適用していくために、SNSやマッシュアップなどの技術が役に立つと、我々は考えています。


■リアルコムが企業情報システムのカギを握る


リアルコムが市場とするエンタープライズの分野では、アイデアとマーケティングだけでは勝てない。まず、コアとなる技術が必須です。中でも、エンジンがコアであると思っています。また、鍵となるのは情報や活動に伴って発生するログ、いつ何のために作られたかというメタデータ、そしてユーザIDです。


さらに、企業システムでは役職によってアクセスできる情報が異なるため、情報を適切にコントロールするアクセス権限という考え方が必要です。リアルコムはこの3つを統合し、コントロールしていく技術で勝負していきます。


■これから本気でグローバルで戦っていくには


我々、従業員70人くらいの会社がなぜシリコンバレーに会社を作ったのかと言いますと、まず、製品のコアを開発するスターエンジニアの環境整備のため。そして、個人で高い専門能力を持ったシリコンバレーの人材をプロジェクトベースで活用できるから。さらに、国内にいるエンジニアに刺激を与えるためです。


この「刺激」には2つの側面があります。
1つは、社員にシリコンバレーで仕事ができるチャンスを与えること。もう1つ重要なことは、デザイン・アーキテクチャ作りのような高付加価値開発は米国、プログラミング・QAなどは中国・インドへ意識的に移していくことで、日本でする仕事の意味を考えてほしかったのです。


お客様の意向を製品に反映すること、仕様書に書かれていないアドリブの開発をすることなど、お客様のいる日本で働くエンジニア固有の役割を見つけていってほしいと思います。




● 質疑応答


Q1 SaaSとリアルコムのサービスを比較すると?

A1 SaaSに関しては日本とアメリカでは浸透のしかたが違います。アメリカでの進行スピード、適用範囲に比較すると、日本でのそれは限定的と考えます。SaaSが一番進むのは決済系のような、「差別化の源泉」というより、「正しく間違いなく」こなすことが重要で、かつビジネスプロセスとして切り出せる分野です。我々も既にSaaSを始めていますが、今後はある特定のビジネスプロセスのアウトソーシングをも請け負う形でサービスを拡大していければ、と考えています。


Q2 コミュニケーションを変革することに対して、人事評価などによるモチベーションは与えられているのですか?

A2 我々はシステムの導入と同時にコンサルも行っていますが、直接人事考課に反映させるようにはしていません。成功のポイントには次のようなことがあります。 まずは間接的に組織人として称える仕組み。ランキングや表彰などです。また、組織としてこういう仕事をちゃんとやる人を大事にするというメッセージを発信することも大切です。こんな人が認められたというストーリー作り、演出も大事になってきます。個人の評価には反映させなくても、部門の業績に反映させることはしています。


Q3 今回のような業務系システムでは、オーナーシップはどうなるのでしょうか?

A3 管理者は三層構造になります。一番深いところにシステム管理者、次に、誰を入れるか管理するコミュニティー管理者、そしてコンテンツ管理者です。


Q4 銀行の事例の場合、評価の指標となったのはどのような事ですか?

A4 もちろん、効率化の指標は出すのですが、それが本質ではなく、目的はカルチャーを変えることです。権限を持った役員がバックにいないとうまく行かないと思います。 この銀行の場合、業務は十分効率化して、これ以上効率化しても株価が上がらない。それでも時価総額を上げないと買収されてしまう。そこで利益率やCSRも指標になってきて、カルチャーに投資するということになったわけです。 現場の側でも、従来のような社宅制度とか福利厚生に社員が魅力を感じなくなっており、仕事を通じて人とつながることや、この会社にいれば自己実現ができる、名誉が得られるといったことに満足するようになりました。このような価値観のシフトがエンタープライズ2.0につながっていると思います。


2007.10.12
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